休校・休園の影響で、子どものデジタルデバイスへの接触時間が増えた家庭も多いことでしょう。今後も“おうち時間”の増加が予想される中、企業はどのように家庭内でのエンゲージメントを築いていくべきでしょうか? 子ども向けの職業体験アプリ『ごっこランド』を提供するキッズスターをホストに、同アプリを活用するサントリー、アットホームよりゲストを迎え、今後のブランドエンゲージメントの考え方をお聞きしました。ぜひ動画のアーカイブ(約30分)もご覧ください。
子どものデジタルデバイス接触が大幅に増加
古市:数カ月に及んだ自粛期間、特に小さなお子さんがいる家庭は、生活を変えざるを得ない状況があったと思います。まず皆さん、いち生活者としてこの期間をどう過ごしていましたか?
金城:4月から完全リモートになり、6歳と2歳の子どもと家で過ごしていました。子どもとの時間が増えて楽しかった部分もありますが、仕事との両立という観点だと、デジタルデバイスに頼り切りでしたね。仕事用のタブレットが子ども用になってしまい、私が「使っていい?」とお願いするような状況でした(笑)。
城殿:我が家も10歳と6歳の子どもがおり、昼食を一緒にとったり公園に行ったりと、普段より一緒に過ごす時間が増えたのはよかったことでした。一方で、これまでは自分がほしいものをポンとECで買っていましたが、家族と話す時間が増えたことで買い物の話題もおのずと増えて、購買までに家族との合意形成のプロセスが必要になりました(笑)。
渡邊:私も完全リモートで、家族の時間や会話が増えていますね。子どもは中2と小5で、彼らの様子を見ていても、今日のテーマでもあるデジタルデバイスを通したブランド接点が増えているなと感じています。私自身も家事の時間が増えたりペットの散歩をしたりする中で、普段とは違うブランド接触を実感しています。
古市:では、今お話しにも上がった家庭内時間の向上や、家族でコンテンツを楽しむ傾向について、金城さんから教えていただけますか?
金城:当社では子ども向けのデジタルアトラクションや知育アプリを多く提供していますが、今回は“家庭内”をいうキーワードに即して、実存企業の職業体験ができるアプリ「ごっこランド」を例に解説します。
金城:このコロナ禍前後で、アプリの利用状況の変化を調べてみました(図1)。まずDAU(Daily Active User)は、通常時は平日に少なく休日に上がっていたのですが、3月2日に休校要請が出されてから平日含め全体が急激に増えて従前の1.7倍になりました。同じようにダウンロード数も3、4月は2倍、プレイ数も1.4倍になっていました。これらは、あくまで「ごっこランド」のデータですが、子どものデジタルコンテンツやメディアの接触量は明らかに増えていると読み取れます。
図1
物件を探していない間もブランドに接触してもらえる
古市:ありがとうございます。サントリーさんとアットホームさんは、コロナ禍の前から「ごっこランド」を活用されているそうですね。その目的や取り組み内容を教えてください。
城殿:金城さんにお会いしたのが、まさにComexposium Japanが主催する一昨年のBrand Summitでした。One to Oneミーティングの時間にアプリを紹介いただき、とてもいい内容だと思って具体的に検討したのがきっかけです。
導入した目的は2つです。一つはファミリー層にゲームを通じて楽しい体験を提供すること。住まい探しは人生で何度もあるわけではないので、そのタイミングが来たときにアットホームを想起してもらうのはとても難しい。広告はもちろん有効ですが、広告に頼ると競合とのGRP投下量の勝負になり、疲弊してしまいます。そうならないために、コミュニケーションの質で勝負したいと常々思っていました。その点ごっこランドのようなコンテンツであれば、住まいを探していない間でもブランド体験を提供できることに魅力を感じました。
2019年10月29日にスタート。「まどりずをつくろう!」「おうちさがしをしてあげよう!」など、物件図面の制作や不動産会社のスタッフになりきる遊びを提供し、子どもやその保護者に不動産会社やその仕事を知ってもらう。
城殿:もうひとつは、ブランドのストーリーを伝えることです。アットホームのサービスをサイトで普通に使っていただくだけだと、ブランドのストーリーや裏側が伝わらないという課題がありました。当社は物件情報の提供だけでなく、実は各不動産会社へ図面を作成して配布したり、コンシューマー向けの検索システムを展開したりもしています。そうした裏側を、「ごっこランド」のコンテンツではゲームを通じて体験してもらえるので、当社がやりたかったこととマッチしていました。
やはり、ターゲットの想起を高められることが、当社にとっての利点ですね。今後、ゲーム体験後の認知や想起のリフト調査をしていただく予定です。
リアルなブランド体験の提供は数に限界がある
古市:では、渡邊さんからもご紹介いただけますか?
渡邊:1年ほど前から、「サントリー天然水」にフォーカスしたコンテンツを提供しています。当社としては、若年層との接点創出が課題でした。その中で天然水を取り上げたのは、一つのブランドでありながら、コーポレートブランド全体と深くかかわっている側面もあることが大きいです。我々サントリーグループの約束として「水と生きる」を掲げており、水源を守る活動をしたり、工場見学や水に関する学び=“水育”などのリアルな体験を通して企業姿勢を伝えています。ただ、やはりリアルな接点だと接触できる方には限界があります。そこで、我々の活動や大自然に磨かれた天然水の貴重さを子どもやそのご家族に知っていただける施策を探していました。
2019年6月27日にスタート。「サントリー天然水」が顧客手元に届くまでの工程を、「雲を作って雨を降らそう!」「雨が地下水になるまでを学ぼう!」「地下水を汲み上げて、お客さまに届けよう!」という3つの絵本・ゲームコンテンツに分けて構成。親子で楽しみながら学ぶことができる。
渡邊:同時に、こうしたメッセージはただ認知してもらうのではなく、質の高いブランド体験を伴って理解してもらうことが重要です。その点からも「ごっこランド」でのコンテンツは合致していました。
成果としては、期待以上に手応えを得ています。利用したお子様からは、「サントリー天然水がどうやってできているかわかった」「雨が土の中に入って天然水になるんだ」などの感想が寄せられています。また親御さんからは、「学べるコンテンツだから、単なる遊びのゲームをさせるより抵抗がない」といった意見がありました。
また、驚いたのは、アプリ内広告のCTRが高いことです。10%を超えていて、コンテンツ体験後に非常にブランドへの関心が高まっていることを証明する数字だと考えています。このまま伸びるとありがたいですね。
子ども向けのコンテンツの質がますます問われる
古市:お二人の話は、コミュニケーションの質にこだわることや、ストーリーの理解を求めるという部分が共通していたと思います。では、これから新しい生活様式に移っていく中で、家庭内でエンゲージメントを高めるにはどんなことが必要だと思いますか?
金城:当社の事業において、コロナ禍の前後で何が変わったかを見てみると、子どもを巻き込んでパパやママが一緒にコンテンツを楽しむ傾向がありました。皆で同じメディアに触れて同じ情報を取得していくことが、今後は明らかに増えていくと思います。
その中で、親御さんがとても気を使っているのが、子どもに見せるコンテンツの選別です。その眼はかなり厳しいと感じています。悪影響がありそうなものは見せたくない、逆に良質なものには接触させたいという意識が強くなると、コンテンツの質が今後ますます重要視されていくと思います。
城殿:そうですね。住まい領域の話だと、家庭内で過ごす時間が増えて当然オンライン接触時間も長くなっていますが、物件契約のオンライン化が課題になっています。法的環境は整備中ですが、サービス環境は整備されていて、入居申し込みや重要事項の説明もできるのですが、やはり物件を直接見ずに契約することに対して、まだネガティブに感じてしまう雰囲気があるのです。デジタル上で、物件を見る・体験するという部分の疑似体験を創出して安心を感じてもらい、このネガティブな面をポジティブに変えていくことを今考えています。
金城:これまで、リアルな体験とデジタル体験の間には一定の垣根がありましたが、コロナ禍の影響でその垣根がかなり低くなっていると感じますね。
渡邊:緊急事態宣言が解除された後も、顧客の気持ちや行動はやはり完全に元には戻らないでしょう。これを機にさまざまなものがオンライン化されてくると思いますが、私はこれまで以上に顧客にとってのブランド価値の本質を見つめ、それに基づく取り組みを進めることが企業にとって重要になると考えています。
今までリアルな場では、イベントなどのプロモーション企画を通して体験を創出してエンゲージメントを高めてきました。しかし同じことを表面的にただオンライン化しても、あまり意味はないと思います。リアルな場でお客様が得ていた情緒的価値や、それによって満たされていた気持ちをオンラインでいかに実現できるかを考えるべきだと思います。
たとえばコロナを機に広まった“オンライン飲み会”。これもその形は様々なはずで、そこで当社の商品が提供していた価値も一律ではないはずです。また、飲料が人と人とのつながりを創出していたのなら、その付加価値をどうオンラインで提供できるかも、考えるべき点のひとつです。
情緒的価値をいかにオンライン化するか
古市:渡邊さんがおっしゃった、情緒的価値のオンライン化の難しさは各所で語られていますね。
渡邊:そうですね、まだ定石や好例もありません。当社では5月はじめから、「話そう。」というコミュニケーション施策をスタートし、タレントさん同士がオンラインで話す様子を提供しています。また、我々はこれまでお客様への商品体験やつながりを飲食店様という場を通じて生み出すことも出来てきましたので、この時期に飲食店様を支援するサービスをローンチしたりしています。このあたりは、裏側の価値を考えながら模索している活動ですね。
城殿:当社でも、前述のオンライン化を推進するために、たとえばVRで部屋を内見できる特殊なページを組み、VRゴーグルの無償進呈を展開したりしています。物件を見ずに決めるのは、遠方からの引越しなど“仕方なく”そうしていた方がほとんどだと思うので、安心感をどう生み出し、積極的に活用したいと感じていただけるかを模索中です。
物件探しにおける価値とは何なのか、いろいろ実践しながら探らないといけないですね。その判断のスピードも、今とても重要だと思います。生活者が変化するスピードも速いですし、多様化する幅も広がっているように感じます。したがって、たとえば「ごっこランド」でもスピーディにコンテンツを追加できたりするとうれしいですね。体験装置としては、本当にすばらしいと常々感じています。
金城:城殿さんがおっしゃったように、対応すべきスモールマスがたくさんある状況下で、それぞれに最適化したコンテンツを提供するのはとても大変だと思います。ただ、それを突き詰められると大変さに見合った反応が得られると思います。
コンテンツにブランドパーパスを込める
視聴者からの質問:子どものデジタルデバイス利用に抵抗がある親御さんが多い中、ブランド体験と子どもの教育を両立するコンテンツにするポイントは?
金城:以前よりは親御さんの抵抗感もなくなっていると思います。また、もはや子どもはタブレットなどの楽しさを知ってしまっていますよね。どうしても使う時期は来てしまう。実際に親御さんの間でも、触れさせるならば学びや気づきがある、単に面白いだけではないコンテンツにしたい、とそれらを探す傾向が出てきています。
その際、コンテンツ制作の視点では、ブランドパーパスを込められるように最大限配慮しています。どんな思いで製品やサービスを世の中に提供されているのかをしっかりヒアリングし、その本質を子どもにも伝わる形でリリースすることに常に気を配っています。
城殿:個人的に、私も以前は抵抗がありましたが、今ではどんどん触らせる方がいいと思っています。子どもの塾がオンライン化して、タブレットを使う様子を見ていても、親が教えずともどんどん自分で試して習熟していきますよね。そこにフタをしてしまうのは、とてももったいない。
渡邊:同感です。確実に子どものほうが速い(笑)。これからは、デジタルデバイスの活用は当たり前の文化になっていくと思います。そうした変化を前提に、どういう体験をつくれるかを考えることが第一歩ではないでしょうか。
古市:今後も家庭内でエンゲージメント構築をせざるを得なくなると思いますが、最後に城殿さんと渡邊さんから、マーケターとしての抱負をいただけますか?
城殿:直接的なサービス訴求も大事ですが、こうした状況下で、いかにサービスに社会的意義があるかにも皆さん敏感になっていると思います。自分たちのサービスの意義を改めて捉え、どう役立っているのかを伝えることが大切になると思いますし、その部分に注力したいです。
渡邊:顧客の意識や行動の変化に、しっかり寄り添っていきたいですね。シンプルですが、生活や社会が変わるときには課題がたくさん出てくると思うので、それに対してわれわれの商品やサービスを通していい体験を提供し、世の中に貢献していきたいです。
金城:今日はありがとうございました。
【お問い合わせ】
株式会社キッズスター
alliance@kidsstar.co.jp
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*社名・役職は登壇時のものです