2020.05.22

【PR】購買行動からわかる「暮らしのデジタルシフト」 ~デジタルで顧客とつながるための考え方とアクション

左下:奥谷孝司(オイシックス・ラ・大地株式会社 執行役員 Chief Omni-Channel Officer、株式会社顧客時間 共同CEO 取締役)/右下:甲斐博一(株式会社日本HP 経営企画本部 マーケティング推進 部長)/左上:古市優子(Comexposium Japan株式会社 代表取締役社長)

「Tech & Device TV Powered by Hp」と「ad:chan」との共催で2回お送りするセッション「withコロナ時代のコマースとより具体的な体験価値の創造」。第1回はオイシックス・ラ・大地/顧客時間の奥谷孝司氏をゲストに迎え、この状況下で購買行動に起きている変化と、求められる企業の対応について解説いただきつつ、後半でそれを基にディスカッションしました。奥谷氏が強調するのは、デジタルで顧客とつながることの重要性。顕在化しつつある、高齢者層を含めた「暮らしのデジタルシフト」とは?ぜひ、動画のアーカイブ(約45分)も併せてご覧ください。

新型コロナに対応して企業は、何に取り組んだのか?

古市:今、コマースはどう変化しているのか、またその状況下で体験価値を創造するにはどうすればいいのでしょうか?日本HPの甲斐博一さんをホストに、同社の「Tech & Device TV Powered by HP」と「ad:chan」との共催セミナーを2回シリーズでお届けします。まずは奥谷さん、新型コロナの影響による購買行動の変化についてお話しいただけますか?

奥谷:withコロナ時代にマーケティングがどう変わるのか、特に経営視点で解説したいと思います。各所でウェビナーに登壇する機会が続いていますが、いつもはじめにこう問いかけています。「コロナ禍において、みなさんの企業は何に取り組んできましたか?」
手前味噌ですが、オイシックス・ラ・大地の例を紹介すると、ステイホームのメッセージを発信しながら、飲食店の料理の提供や医療従事者のサポート、また学校が休校になった初期のころは高校生へ就農体験を提供したり、最初に影響が出た北海道の物産展をオイシックス上で実施したりしました。

他社の事例でも、例えばブランドロゴを改変してソーシャルディスタンスを表現したり、アルコールメーカーが消毒液を提供するなど、この状況ならではの活動がありました。リテールで大変すばらしいと思ったのは、北海道の大手ドラッグストアチェーンのサツドラが、開店前にマスクなどを求める顧客で行列ができてしまうことを受けて、4月早々にマスクと消毒液の開店時の販売を取り止めたことです。状況に合わせた販売が、スピーディに展開されていました。
また、私がアドバイザーを務める、How to動画を展開しているsoeasyでは、日本在住の外国人の方向けに特定給付金の記入方法を解説したり、メーカー様などの協力を得てステイホームの助けになる動画を発信したりしました。

顧客時間でも、微力ながらロゴを通してソーシャルディスタンスのメッセージを発信したほか、三井住友カードと共同で「コロナ影響下の消費行動レポート」を作成しました。
ここからは本調査を通してわかったことも交えて、“New Normal”といわれる時代に必要な以下の4つの要素をひも解いてみます。


1.Empathy 共感力
2.Digitally Connected デジタルでの繋がり強化
3.改めて、Channel Shiftを
4.信頼できるCustomer IDの整備とHeadless Commerceの実践

顧客に寄り添い困りごとを見つける“共感力”

奥谷:消費者行動はかなり変わってきていることがわかりました。合わせて、今後も定着していくだろうという兆しも見えてきています。こうした状況下では変化への対応が急務ですが、同時に「我々自身が打ちひしがれてはいけない」という点に留意しなければいけません。事業会社のミッションは、顧客の困りごとを解決することですから、顧客に寄り添い、喫緊の困りごとは何かを見つける共感力が非常に大事だと思っています。

図1

業種別ではホームセンター、スーパー、EC・通販などが伸長、「巣ごもり消費」が顕在化

前述の調査でまず注目したいのは、業種別の2020年3月のクレジットカード決済の前年同月比データです。外出自粛要請の影響もありますが、決済件数と決済総額の増減をまとめたところ、この状況下でも開店できていたスーパーとホームセンターは、数字的に非常に良いことがわかりました(図1の右上)。一方、決済件数と総額ともに減じ、苦境に置かれていたのはレジャーや旅行、映画や移動に関することなど顧客体験や経験が関連する事業です(図1の左下)。
興味深いのは、ドラッグストアや家具などでは、決済件数は減っているが総額は上がっていることです。1件あたりの購入額が増えるというのは、来店頻度の増加や、不要不急の買物の兆しかもしれません。いずれにしても、巣篭もりの状況がよく表れていました。

図2

高年齢層は実店舗よりECにシフト、消費行動が大きく変化

次に、性・年代別に分析したところ、高齢者層のECシフトという変化が明確に表れました(図2)。1月~3月の決済件数を比較すると、スーパー利用だけでなく、高齢者層のEC利用の伸びが顕著でした。また、業種別の決済金額の前年同月比からは、20-30代でスポーツブランドが伸長していました。私もそうですが、家で仕事をするようになって、着るものが変化しているわけですね。またペット関連も伸びており、この機会に家族や命の大切さを改めて考える人も多かったのではと思われます。

全世代で伸びているのは、ホームセンターです。業種によって規制の度合いが異なることが影響してはいますが、品ぞろえが豊富で買い物の快楽性が高いホームセンターを、私は“裏百貨店”と捉えています。従って必需品の買い物という実益以上に集客していたのではと思います。その他、4月初旬から玩具やゲーム系が伸長し、同時に検索件数も伸びているので、買った後の体験も重視していく必要があることがわかります。

デジタルでのつながり強化とチャネルシフト

奥谷:では、こうした状況下で我々はどのような顧客体験を設計すべきか、経営視点から考えてみます。拙著『世界最先端のマーケティング 顧客とつながる企業のチャネルシフト戦略』で解説したチャネルシフトが、今改めて重要になってきています。

図3

チャネルシフト・マトリクス

この図3では、商品の選択の場と購買の場をマトリクスにしています。両方ともオフラインなのがリアル店舗で、来店して品ぞろえを見て決済するという一連の行動がなされており、両方ともオンラインであるECとの間に対抗軸がありました。
ですが、オンラインを基軸にしながら商品の選択はオフラインで行う(図3「チャネルシフト①」)、あるいは決済と受け取りをオフラインで行う(図3「チャネルシフト②」)といったチャネルシフトが増えてきています。特に今重要なのはチャネルシフト②で、例えば店頭受け取りサービスの普及やデリバリーの拡大は、オンラインでつながりながらリアルに進出するチャネルシフトを実践しています。もはやそうしなければやっていけない時代になっているのです。

チャネルシフトを活用するとは、オフラインのビジネスの現状維持からの脱出を意味します。そのためにまず何より重要なのは、デジタルで顧客とつながることです。
デジタルで顧客とつながるとき、確実につながることができるIDの収集が重要です。コロナ禍の影響で現金を扱うのが憚られるとなると、モバイルペイメント対応も必要ですし、店頭ピックアップや事前オーダーも大事です。
では、現場でこうした対応が迫られることを、経営としてどうサポートすべきでしょうか? オンライン開催となった「Adobe Summit 2020」が参考になったので、エッセンスを少し紹介したいと思います。

図4

外部環境と企業経営

数年前から言われてはいますが、今年はマーケターとテクノロジストが協業して顧客体験を設計する、「MarTech」がキーワードになると思います。企業と顧客が向かい合うとき、Cクラスで重要な役割を担うのはやはりCMOとCDOです。この2者が優れた体験を創出し、それをCIOとCTOがしっかりサポートする。さらにその上にCEOやCOOが全体を把握し支援する、こうした環境がつくられているかどうかをマネジメント層はよくチェックすべきです。このプロセスを構築しながら、いかに顧客の気持ちを汲み取った経営=“共感経営”ができるかが問われていますし、その際のマーケティングはアジャイルな方法で高速PDCAを回し、優れた顧客体験を創ることが必要になります。

信頼性と耐久性のあるID整備とHeadless Commerceの実践

奥谷:MarTechで重要なのは、前述の顧客とのつながりを担保することです。ここでのポイントは、デュアラブルIDとプライバシーの担保です。攻めも大事ですが守りも大事なので、Cookieが使えなくなる時代に有効な、耐久性があり、信頼のおける顧客IDを保有すると同時に、コンプライアンスを厳守してプライバシーを担保する体制の整備も欠かせません。

図5

DAM - Digital Asset Managementの重要性

並行して、デジタルアセットのマネジメント体制の見直しも必要でしょう。「DAM-Digital Asset Management」という概念がありますが、DAMを中心にWebコンテンツマネジメントを行い、MAを回し、CRMを有効化していくという構造です。こうしてPDCAを回すことで、スピーディーに体験の精緻化を実現できます。

図6

Headless Commerce

デジタルベースの顧客体験を考える上で、もうひとつ重要なコンセプトである「Headless Commerce」を紹介します。いまや、Webの会社だからECが中心だとか、当社はリアル店舗をベースに顧客体験を設計するといった、どこかが“主”になるという考えは通用しなくなります。タッチポイントが分割され、接客や決済などに対するニーズも人それぞれになるので、どのヘッドにも対応できるプラットフォームを構築して適宜コンテンツやオファーを出し分けられる環境をつくる必要があります。IDとアセットマネジメントを整備し、ヘッドレスコマースを実践することで、デジタルベースの顧客体験の継続的な創出が可能になっていくと思います。

今の気持ちや状況を踏まえたコミュニケーションを

甲斐:ありがとうございました。ここからはこの話を踏まえて、ディスカッションに入ります。まず、本セミナーのタイトルである「購買行動における本質」について、ご紹介いただいた消費者調査なども通して、この状況下での本質をどう捉えればいいでしょうか?

奥谷:デジタル側から考えると難しくなる気がしますが、もっとシンプルに“買う”行動を見ようとすると、僕はまず「店頭に立っていれば困りごとがわかる」と思っています。もし自社店舗を閉めているなら、自分が困っていることは、きっと顧客も困っているのではと考えて、その困りごとを想像してみる。
「今週は父の日ですね」といった従来通りの施策も悪くないですが、それよりも今なら、やはりマスクの売り方や店舗運営の方法を見直すほうがいいのではないか、とか。今こそ、コミュニケーションを変えるいい機会と捉えて、顧客に寄り添って共感しながらどんどん挑戦するといいと思います。
目の前で子どもが転んだら、助けますよね。とてもシンプルな例ですが、顧客への対応も同じで、共感する姿勢が大事です。この状況を無視して、単なるキャンペーンDMなどを今送られても……。

甲斐:それは逆効果になりますね。

奥谷:そう。だからといってお客さんへのアプローチ自体を自粛すべきというわけではありません。中には、直近の自社の考えと活動を発信して、うまくコミュニケーションを図る企業も出てきています。例えば塾が新聞広告で、フェイスシールドやビニールシートなどで対策をアピールしているのは好感が持てました。先ほど話したサツドラさんの取り組みも、行列でつらい思いをされないようにという共感から生まれたアクションですよね。とあるホームセンターで、マスクの販売をLINE抽選で実施したそうですが、これも顧客に寄り添っています。
前半はロジカルな話をしましたが、もっとウォームハートな部分でも、できることを探せるはずです。これは実際に顧客に対応している現場の人ほど気づくと思うので、顧客の変化を実際にその眼で捉えて、現場から声を上げてもらいたいですね。

甲斐:前線にいる方々の気づきと行動が大事になってきますね。先ほどの消費者調査では、高齢者とデジタルに注目していましたが、UI/UXの観点ではこの相性をどう考えていますか?

奥谷:現在の高齢者への体験そのものとしては、あまりよくないですね。まだまだ改善の余地があります。ただ、オムニチャネルショッパー研究においてオンとオフを使いこなす人を見ると、意外と50-60代も出てくるんですね。この年代を高齢者と呼ぶかどうかは別として、これは可処分所得とも関係していると考えています。若い人はそこまでお金がないので、意外とオムニチャネルショッパーとして浮かび上がってこないんです。
そう考えるとギャップが見えてくるので、この状況下で半強制的にデジタルを使うようになった人を捉えた上で、その方々に適したUI/UXを整備し、ネットに誘導しやすい環境を検討していくといいと思います。

フィジカルの重要性を認識し始めた若年層

甲斐:逆に、若年層の変化や、彼らの顧客体験の改善についてはどのような意見をお持ちですか? 私の感覚では、デジタルネイティブとしての側面は変わりなくても、友達と会えないとか学校に行けないことでフィジカルの重要性が認識され始めているように思えます。フィジカルとの組み合わせを考えると、今後の彼らの生活はもっと良くなるのでは、と。

奥谷:今、僕も大学の授業をオンラインで展開していて感じますが、全体で考えると、若い人へのコロナ禍の影響はそこまで大きくないと思います。ただ、それだけに国や企業は彼らの声や不満をすくい上げられなかったという、個人的に申し訳ない感覚がすごくあります。
もちろん、若年層はもともとデジタルに積極性がありましたから、これを機に世界中の人とデジタルで繋がったり、学べたりする良さを享受できると思います。しかし、だからといって彼らのフィジカルの価値が低減されたままでいいわけではありません。自粛が明けたからといって、僕らおじさん世代が一斉に無駄に通勤したりするくらいなら、彼らを外で遊ばせてあげたいし、過ごしやすいようにフィジカル要素を提供してあげたい。それが結果的にネクストエコノミーにもつながるとも思います。
例えば、夏の甲子園大会が中止になりましたよね。ふだんは若者がターゲットではない企業でも、もしポテンシャルがあるなら、彼らのために何かしてあげてほしい。また、リモートワークに関しても家族世帯の不満が注目されがちで、一人暮らしの孤独は見過ごされています。そうした部分にも寄り添えるといいですね。

甲斐:それについては本当にそう思います。高齢者がデジタルシフトして、若年層がフィジカルの良さに気づいたというのは、どちらもOMOになっているという捉え方ができると思います。

奥谷:そうですね。顧客時間ではこれを「暮らしのデジタルシフト」と呼んでいます。たとえばキャッシュレスであれば、半強制的に推進するのではなく、利便性を伝えながら良質な体験を設計すれば若年層は適応が速いでしょうし、高齢者もフレンドリーなUI/UXやコールセンターなどのサポートを通して促せると思います。
いまだに店舗には、テクノロジー恐怖症のカルチャーがあったりします。しかしデジタルを中心に経営を変えることを考えると、そのような態度には大きなリスクがあります。むしろ、店舗のスタッフがテクノロジーを顧客に説明する役割を担うようになる、そういう段階にきていることを理解してほしいですね。店舗のスタッフがキーになれば、暮らしのデジタルシフトが進みますし、そうすると顧客理解は自然と深まります。

視聴者からの質問:消費者とのコミュニケーション手段にメッセージアプリを活用する企業が多く、メルマガなどは下火のように思えますが、ファーストパーティーデータへの注目を考えるとメールはまだまだ重要ですか?

奥谷:ファーストパーティーデータは大事ですが、それはコミュニケーションのタッチポイントとしてではなく、「Who you are?」を確認するために大事だと思います。確かに企業からのメールはそこまで見られていませんが、メールアドレスはその人が誰なのかを把握するひとつのファーストパーティーデータであり、ダイレクトにつながれるIDです。今後、仮にDtoC的な取り組みをしていけば、アプリやLINEでつながるほうが便利になるかもしれませんが、やはり自らファーストパーティーデータを収集することも心掛けてはどうでしょうか。

甲斐:その通りですね。メールは不要なのでは、といった意見は少し企業目線になりすぎているように思えます。シンプルに、顧客が望むものは全部必要なんですよね。
私の経験で思い出すのは、PCの法人顧客で数カ月間メールが開封されていなかったのに、あるとき2週連続で開封され、その後3カ月で案件獲得に至ったケースです。しばらくの休眠後、急に動き出てきたわけです。
ここから学べるのは、この顧客にはメールは必要だが毎週は要らない、データを見ているだけではこの顧客はメール必要ないからやめておこうとなっていたはずです。でも、このお客様には必要になったときには検索の省けるひとつのタッチポイントとして機能していたということですね。こうした顧客インサイトを深めながら体験を設計できるかどうかが、その質を左右すると思いました。

奥谷:今、タッチポイントは無数にありますが、それぞれでなるべく顧客が「直接つながってもいい」と思える企業姿勢があるといい。ブランド力とも言えますね。それが、コミュニケーションの頻度や質につながり、ひいてはコンバージョンにも結び付くと思います。

古市:お話しは尽きませんが、最後にお二人からマーケターの方へメッセージをうかがえますか?

奥谷:今は目の前の顧客対応で大変かもしれませんが、デジタルシフト移行期に得られるデータは顧客理解だけでなく、未来の洞察にも役立ちます。定量、定性とも、顧客をぜひいろいろな側面から見てみてください。
しばらくしたら、自粛も徐々に解禁になるでしょうが、徐々にリアルに戻る中でも自分たちが経験した状況を忘れず次に活かせるといいですね。生活におけるデジタルシフトは何なのかを考えながら、より良い顧客体験を創出していってもらえたらと思います。

甲斐:不謹慎かもしれませんが、マーケターの方とともに、この歴史的な変化の時代を楽しむくらいの気持ちでいたいと思っています。HPにあるのはコンピューティングとプリンティングのテクノロジーなので、それをどううまく使うかを皆さんと一緒に考えていきたいですね。今後、今日ご参加いただいた方同士のネットワーキングの場も設ける予定なので、ぜひ参加いただけたら嬉しいです。

古市:今日はありがとうございました!

日本HP主催 オンラインサロンのご案内

申込:https://www.techdevicetv.com/liveandmovie/salon_20200630/
*1回目、2回目共通です

第1回「Postコロナに向けた消費者動向変化をアメリカに学ぶ」
日時:6月30日(火)16:00~17:00
ゲスト:IBAカンパニー 代表取締役 射場 瞬氏

第2回「Postコロナに向け日本のマーケターがやるべきことを中国事例から考察する」
日時:7月10日(金)19:00~20:50
ゲスト:株式会社ビービット執行役員 / 合同会社宮坂祐事務所代表
宮坂 祐氏

*社名・役職は登壇時のものです

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