2020.04.22

(ad:chan ラジオ対談)

想像力を味方につける ラジオCMに学ぶ音声コンテンツの可能性と活かし方

ゲスト:嶋 浩一郎 株式会社博報堂ケトル 取締役 クリエイティブディレクター / 編集者[右上]/澤本 嘉光 株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター / CMプランナー[下]/ad:chanパーソナリティ:古市 優子(Comexposium Japan 株式会社 CEO)[左上]

4月22日(水)に行われたad:chanライブ配信「エンゲージメントを高める音声コンテンツの本質 ~長期の在宅勤務はメディア接触態度をどう変化させるのか?」のダイジェストをお届けします。博報堂ケトルの嶋浩一郎さんと電通の澤本嘉光さんをお迎えして、2019年のACC TOKYO CREATIVITY AWARDSラジオCM部門の受賞作を中心に紹介しながら、音声コンテンツから学ぶべき点をお話しいただきました。抱腹絶倒のラジオCMは、動画アーカイブ(約60分)の該当分数を記載しましたので、ぜひご視聴ください。
協力:一般社団法人ACC

“あなただけ”に語りかける ラジオの「銀座のママ理論」

古市:今回はまさにこの状況下で急にラジオを聴くようになった、とっても“にわか”な私が、ラジオラブな豪華なゲストお二人にお話をうかがいます。ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSの審査委員も務められている嶋さん、澤本さんに、ラジオ部門の受賞作を紹介いただきながら、音声コンテンツの魅力について楽しく議論できればと思います。なおラジオCM素材は、一般社団法人ACCより提供いただきました。

嶋:1時間、あっという間に過ぎそうですね。今、本当に多くの方が在宅勤務をしていると思いますが、この状況にならずとも音声コンテンツの重要性は増していくだろうと、以前から話していました。かつてはマスメディアが生活者と企業との情報のインターフェースでしたが、今や5GやIoT化が進んで、車やスマートホーム、トイレやお店や自動販売機までがインターフェースになってきています。そして、そこでは音声が意外と重要視されています。
 IoT化が進むと、全部がパーソナルなコミュニケーションになっていきますよね。車と運転手、スマートホームと住む人との関係も1対1になる。テレビ番組では出演者が“皆さん”と語りかけるのに対して、ラジオは“あなた”と言われたほうが気持ちよかったりするなど、実は不特定多数に向けているのに「私のために語りかけている」と感じたりします。これを僕は「銀座のママ理論」と言っていて、ママは全員にやさしいのにお客さんは皆「ママは絶対自分のことが好きだ」と思ってしまう、そんなラジオ特有のコミュニケーションに学ぶべき点はすごく大きいと思います。

澤本:1対1の感覚になると、たとえ知り合いでなくても勝手に知り合いのように感じますよね。それってIoT化が進んで、自分と車が友達だ、冷蔵庫が友達だ、みたいな感覚になっていくのと似ているので、僕もこれから音声がどんどん重要視されていくと思っています。どう音声を使うと楽しくなるかというのは、ラジオCMを聴いているとすごくわかるので、ぜひ参考にしてほしいですね。

嶋:まず2018年のグランプリ作品を紹介します。内容としてはシリアスですが、こういう音声の料理の仕方があるんだ、と感じてもらえると思います。

(6:19)
群馬マスコミ3社(上毛新聞社・群馬テレビ・エフエム群馬) 特殊詐欺ゼロキャンペーン 題名「無許可」(2018年総務大臣賞/ACCグランプリ受賞)

嶋:これはまさに、振り込め詐欺をしている犯人の音声をそのまま使っています。犯人の声ってもうちょっと芝居じみているのかなと思ったら、意外と淡々としゃべるところが逆に怖くてリアリティーを感じましたよね。

澤本:そうですね。リアルのオレオレ詐欺はこうくるんだと、一種の予行演習にもなっている。そして「音声を勝手に使っているが何かあったら警察へ」というのは、頭のよいまとめ方をしているし、世の中のためになっています。既存の音であっても、ちょっと利用の仕方を考えるとラジオCMに使えると思って素材を探すと、いろんなものがある気がします。

学校の雑踏の環境音をつければ学校に、波の音をつければ海になる

嶋:在宅“勤務”といっても、子供の面倒をみたり料理をしたりとかやることが多い中、音だけという点はラジオの大きな強みですよね。

澤本:古市さんは、こういう状況になってラジオを聴き始めたんですか?

古市:そうですね、小学生ぶりに改めて。1回聴いてからは、ほぼ毎日つけています。それこそ“ながら”ができる、生活の一部になれるところが大きいし、ちょっと席を離れてもまた戻ってこられる感じがありますよね。

嶋:そもそも昔から、車を運転しながら、受験勉強をしながら聴く人もいっぱいいたわけで。「ながら」ができるのは、五感のうち聴覚だけしか使わないから。しかも、だからこそ想像力が刺激されるんですね。
 音を聴かせるテクニックという点で、2019年の受賞作のひとつ、パナソニックさんのCMを聴いてみましょうか。

(12:26)
パナソニック 沸騰浄水コーヒーメーカー 題名「温度を聞く」(2019年ACCシルバー受賞)

澤本:うまいですよね。音を聴きながら、「あ、今はポットに“お湯”を入れているな。これは“水”だな」と映像が見えます。同じコンテを映像にするより、ラジオのほうがずっといいはず。

嶋:ラジオCMはほとんど制作費をかけずに頭の中にどんな映像でも浮かべさせることができる。これってある意味むちゃくちゃ効率がいい。ラジオって本当に想像力のメディアで、「今ここに宇宙人がいます」と言ったとたんに舞台が宇宙になるっていうのが、すごいところですよね。作り手の力量としてはその想像力をどこまで引き出して、人を楽しませられるか。

澤本:昔、自分がラジオCMの原稿を書いていたとき、あまりおもしろくなかったら後ろの環境音をよく変更していました。たとえば学生同士の会話の後ろに学校の雑踏をつけると学校での会話ですが、海の音をつけると海辺になる。そうやって場所をポンポン変えられるのは音声のメディアの強みだし、さらに予算がかからないので表現のチャレンジがたくさんできて楽しいですよね。

嶋:澤本さんはよく、若手のクリエイターはラジオCMをつくるべきだとおっしゃいますよね。

澤本:そうですね、基本はラジオからテレビに移行する人が多いですし、そのほうがいいと思っています。秒数の感覚をつかめますし、間がわかってくる。同じ原稿でも間をどう取るかによって、全く印象が変わってきます。音声としておもしろいものに映像をあてれば映像もおもしろくなるのは当たり前なので、音の要素を学ぶ点ではラジオCMをやっておくほうがずっと得だと思っています。

想像力を掻き立てる、実験ができるメディア

嶋:そんな音の要素だけで大いに想像できる作品を聴いてみましょう。戦隊モノの“予告編あるある”を研究して、うまくまとめられています。

(18:38)
第一三共ヘルスケア クリーンデンタル 題名「次回予告1話篇/次回予告2話篇/次回予告3話篇/次回予告4話篇」(2019年ACCゴールド受賞)

澤本:世界観ができているから、こういう戦隊モノが実際にありそうなイメージがわきますよね。

嶋:ACCのラジオの審査ってこういうのを聴いて、笑いながら審査しているんです。その審査には広告クリエイターだけでなく、リスナーの皆さんのリアルな反応をわかっている、ラジオ局のプロデューサーやパーソナリティの方々にも入っていただいています。
 さっきのパナソニックさんの、お湯と水は粘度が違う、といったことが出てくると「いや階段も上がるときと降りるときの音が違うんだよ。その音源をちゃんと音声さんは持っていて、ラジオドラマで使い分けるんだよ」みたいな話をしてくれる。ラジオ番組の作り手の皆さんは、聞き手がどう感じるかについてすごい細かいテクニックを持っているし、そういう人たちに審査に加わってもらうのもすごくいいことだと思っています。
 この音の使い方と、最初の振り込め詐欺のようなドキュメンタリーをミックスさせたのが、2018年の服飾専門学校のCMです。

(24:03)
上田安子服飾専門学校 企業(学校)題名「足が速ければ」(2018年ACCシルバー受賞)

嶋:ただ走っているだけっていうね。うちの学校は梅田駅前からとにかく近いよ、40秒で着くよ、とアピールするCMですが、これは新しいというか、想像力も掻き立てられるし、ドキュメンタリーの要素も入っていて。若手クリエイターがコミュニケーションの複雑な構造を覚えていくファーストステップとして、こういう実験的なことができるのもラジオの利点です。

澤本:基本的に、ラジオって実験できるメディアだと思います。今のは、たぶん原稿がないんじゃないでしょうか。走ってと指示を出して、ただそれを録っている。それって、CMというより番組っぽいですよね、偶然性に左右されるかもしれないけど、それを含めて実験でいい、と言われている感じがあります。

元祖ソーシャルメディアとしてのラジオ 余白の残し方が大事

嶋:今はCMの話をしていますが、番組コンテンツとしてのラジオも、生放送のほうが魅力的な部分ってありますよね。

古市:それってなぜですか?

嶋:日々起きていることに対して瞬間的に反応したり、リスナーの皆さんからのメールに答えたりしていくメディアだから、つくり込み過ぎるとおもしろくないというか。ラジオって、元祖ソーシャルメディアなんですよ。実は僕はもともと番組に投稿し続けていた“ハガキ職人”で、Twitterが出てきたときに「あ、これラジオだ」と思ったんです。ある番組のファンは皆ファミリーな感じがして。雑誌メディアにもそういう面がありますが、音声コンテンツってコミュニティをつくスキルが著しく高いと思う。
 よく、ラジオの通販番組は返品率が非常に低いと言いますよね。その理由は、パーソナリティへの信用があるから。その信頼性のつくり方も含めて、パーソナリティと共犯になれるところもラジオの大きな特徴です。澤本さんもきっと、いろんなパーソナリティと共犯になっていたのでは?

澤本:嶋さんほどハガキは書いてなかったと思うけど(笑)。でも本当に、ソーシャルメディアっぽいですよね。

嶋:リスナーと一緒につくっていくような、その感じ。さっき、ラジオは想像力のメディアだと話しましたが、そのための余白の残し方が大事ですよね。若手がラジオCMをつくると、やたらと精緻に説明しちゃうんですね、状況や商品を説明しないと不安になってしまう。でも、余白があったほうが人は想像しやすいこともあります。
 ラジオや音声コンテンツが人の想像力を羽ばたかせるのは、余白がある表現だからだと思います。澤本さんがこの前、ラジオの原稿は手書きで作れ、という話をされていましたよね。間を空けるところは、実際に紙の上での余白を空ける。その部分で人は想像するんだ、という話にはとても共感しました。

澤本:ラジオCMを、パソコンを使ってレポートっぽく書くと、そこに時間の流れがないんです。昔が良かったと言いたいわけではありませんが、以前は400字詰め原稿用紙に縦書きにして原稿を書いていました。大声で言ってほしいところは太いペンで、間を空けたいところは空白にして、音楽のイメージも全部1枚の紙の中に書き込んでいくんです。これ、その原稿を見ただけでどういう時間の流れになるのか、音声の構成になるのか、などの全体像が原稿の読み手に視覚的にわかるんです。文字要素だけではなくて。それを原稿として渡していたので、自分がつくりたいものの完成形を、原稿を書いている時点でイメージできていました。なので、なるべく手書きでと言っているんですよね。

嶋:今の若手はあまりラジオを聴いてこなかったかもしれないけど、もっとリスナーを信用して、表現していったほうがいいかなと思います。聞き手の想像力ってすごいから、今後ラジオCMに限らず、IoT化が進んで音声コンテンツを企業がつくっていくときに、余白感がとても重要になると感じます。僕はこれ、「塗り絵理論」と言ってるんですが、塗るところが残っていたら、クリエイティブディレクションとしてオッケーみたいな。

澤本:ラジオを聴き慣れていないと、原稿を読んだだけでは「言い足りないのでは」と思ってしまうんですよね。でも聴いてきていると「あ、これ結果こうなるから想像できるんだな」とわかる。作る側だけでなく、ラジオCMを出稿するクライアントさんも、できれば少しラジオCMを聴いておいていただけると、もっといい原稿が世の中に増えると思います。

想像の“一歩先”を裏切ることがリスナーを振り向かせる

古市:たしかに、さっきの専門学校のようなCMを一度聴くと、説明しすぎないことが大事だとわかりますよね。さて、参加者の方からたくさんコメントをいただいています。一つ目は、「ながら聴きといわれるラジオですが、音を効果的に使ったCMは、一時的に手を止めて聴き入ってもらう必要があると思う。そのためのテクニックはありますか?」。

嶋:ラジオCMのいちばん短いパッケージは20秒ですが、逆に番組自体はゆるいものも多いので、緩急のつけ方はいろいろあると思います。

澤本:実はテレビもそうですが、特に音声に限っていうと、人間は生活の中で音を聴きながら「一歩先に何が起こるか」を常に想像しているじゃないですか。だから、その想像とは違うものが出てくると、「お、ちょっと待てよ?」と手を止めたりする。そういう部分をちりばめていったりすると、ポイントになると思います。

古市:もうひとつ“ながら”関連ですが、「在宅勤務が増えて、動画配信のながら視聴も増えると思う。するとラジオの手法が動画配信にも活かせるのではと思うが、ラジオ好きのお二人はどう考えますか?」。

嶋:大いに活かせると思います。まず、映像が思い浮かぶような音を伝えること。そして、あなたのためにというパーソナルな感じ。『暮しの手帖』編集長の花森安治さんが書かれた「実用文十訓」というのが僕は大好きなんですが、その中に「一人のために書くこと」という大事なフレーズがあります。それって、本当に今後のコミュニケーションに必要なことで、かつラジオがやっていることですよね。

澤本:YouTubeでおもしろい映像は、音だけ聴いてもたぶんおもしろいですよね。絵があるかないかだけの違いになっていると思います。

嶋:せっかくなのでもう少し聴きましょうか。

(42:05)
パナソニック 企業 題名「新元号予想」(2019年ACCブロンズ受賞)

澤本:元号が決まる前日の1日だけ、流しているんですよね(※新元号を予想する内容)。予算の話も出ましたが、この当日だけのタイミングを捉えた現場感は、ラジオだからできることだと思います。

嶋:ラジオって、タイミングのメディアでもありますね。この日、この時を活かすこともできるし、逆に固定リスナーがいるからこそ、刷り込み感を活かしたコミュニケーションもできる。

古市:もうひとつ質問ですが、今この状況で新しいライブ配信や音声コンテンツを活かしたアプリなども出ている中、こういうオンラインの動画配信は、テレビ的な“皆さん”という呼びかけが適しているのか、それともラジオの“あなた”がいいのか、どっち側なんでしょう?

嶋:“あなた”になったら強いんじゃないですかね。

古市:確かに。その呼びかけで違和感がなくなったライブチャンネルは強そうです。

嶋:おもしろいのは、YouTuberの人たちが、視聴者を“リスナー”っていうんですね、ウォッチャーじゃなくて。このことからも、ラジオって本当に、1対1の共犯者関係になっている感じがする。これ、ごめんなさい、ニッポン放送の吉田尚記アナウンサーの受け売りなんですけど。

澤本:僕も今日、こうやってZoomで配信に参加するのは初めてなんですが、映像だからテレビ寄りかなと思ったら、全然ラジオ寄りですね。3人でしゃべっている感じがすごくする。それは大きな発見でした。

古市:画面越しですが、お互いに向き合って話しているからかもしれないですね。

嶋:さて、そろそろ2019年のグランプリを紹介しましょうか。6シリーズ、ぜひ全部聴いていただきたい。いわゆるキンチョーさんとして認識されていると思いますが、大日本除虫菊さんは本当にラジオCMに関してはパイオニアで、いろいろな文脈をつくり、それをあえて毎年変えていくという。イチローが毎年バッティングフォームを変えるみたいな感じですよね、澤本さん。

澤本:それで必ず当て続けているのはすごいですよね。

(50:17)
大日本除虫菊 ゴキブリがうごかなくなるスプレー、ゴキブリがいなくなるスプレー、コンバット 題名「G作家の小部屋 独創性について/G作家の小部屋 ライフスタイルについて/G作家の小部屋 サービス精神について/G作家の小部屋 コミュニケーションについて/G作家の小部屋 名前について/G作家の小部屋 死について」

古市:フフフフフ(笑)。

澤本:最高ですね。

嶋:これはもう、ラジオCMのテクニックがあらゆるところに惜しみなく使われています。音楽の入り方も、余白も。ちなみにナレーターが、直木賞作家の町田康さんというのもまたね。
 ……という感じで、音声コンテンツの可能性をいろいろ話せたと思います。これ、ぜひ第二弾もやりたいなぁ。

澤本:本当ですか(笑)。

古市:ぜひ、またお二人とお話しできたらうれしいです。今日は本当にありがとうございました!

嶋 浩一郎 株式会社博報堂ケトル 取締役 クリエイティブディレクター / 編集者[右上]/澤本 嘉光 株式会社電通 CDC エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター / CMプランナー[下]/インタビュアー:古市 優子(Comexposium Japan 株式会社 CEO)[左上]

<協力>
一般社団法人ACC

*社名・役職は登壇時のものです

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