2020.04.03 By Comexposium Japan 中澤圭介

緊急Zoom配信ダイジェスト

新型コロナウイルスの体験は世界共通、そこを核に何を生み出せるのか?

鈴木 健(株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部 ディレクター)[右上]/長瀬 次英(Pencil&Paper.Com株式会社 CEO、Visionary Solutions株式会社 CEO)[下] / ad:chanパーソナリティ:古市 優子(コムエクスポジアム・ジャパン株式会社 President and CEO)[左上]

4月3日(金)に行われた緊急Zoom配信「新型コロナウイルスにマーケター、マーケティングはどう立ち向かうのか?」のダイジェストです。ライブ配信日は、主要都市に緊急事態宣言が出される数日前。刻一刻と状況が変化し、先が予想できない中でも、マーケターはどう考え、行動していけばいいのか?日本と世界の対比、生活者と企業の関係性など、視野を広げてこの先に立ち向かうためのヒントが得られます。こちらの動画のアーカイブ(約30分)もご覧ください。

シリアスさに欠ける日本企業・生活者の本格的な変化はこれから

古市:もはやAfterコロナというより、Withコロナという状況にあるわけですが、生活者、企業はどう変わってきていますか?

鈴木:日本では、コロナに関する話題は、2カ月前のダイヤモンドプリンセス号のころからずっと取り上げられています。しかしこの1カ月、いや2週間で大きくフェーズが変わっています。それだけに、生活者自身もいまの状況に混乱しているのではないかと思っています。長瀬さんは、生活者だけでなくビジネスの面も含め、変わったと感じることはありますか?

長瀬:私は生活者の変化はまだまだこれからだと思います。確かに、トイレットペーパーなどの買い占めといった小さなアクションは起きています。また、こうした状況だからECが伸びるという声もありますが、それも本質ではありません。いまはまだ、こうしたことが引き起こす、ある意味“えぐい部分”には到達していない感じがしています。

鈴木 健氏

鈴木:たしかに、温度感は人それぞれですね。特にアメリカ、ヨーロッパの人たちは、状況が急激に変化したので怖がっている部分もあるのだと思います。一方で日本では、まだそこまでシリアスに捉えられていない。それはテレビを見ていても明らかで、確かにニュースはコロナ関連のものなのですが、広告はいつもと変わらず流れています。つまり、コミュニケーションのレベルでは、まだ自粛に至っていないということです。コミュニケーションが最も生活者の欲望を反映しますから、まだそこまで緊急モードではないように感じます。

長瀬:そうですね。欧米ではすでに広告・マーケティング活動を規制していたり、そもそも出稿していないところも多い。インフルエンサーが家の中で楽しむことに関するコンテンツをアップし、そこをブランドがスポンサーすることもありましたが、それもなくなりつつあります。その状況と比べると、日本はまだコロナの影響による変化が始まってもいないと言えます。

鈴木:そう、日本はまだ全然シリアスではないですよね。

長瀬:また、先ほど私がSnapchatのフィルターを使ってライブ配信中にちょっとした遊びを入れましたが、そうした工夫も日本ではまだ浅く、あまり見かけません。それも、外出規制の濃度の差が反映されていると思います。

古市:日本は欧米と比べて、まだまだ日常生活ができていますよね。

鈴木:そういう意味でビジネスの方が、反応が早い気がしています。このライブ配信自体Zoomで行っているように、日常的にビデオ会議が多くなってきました。しかし、こうしたビデオを通じてほかの人と話すのを普通の人に強制しているわけではありません。私が1カ月ほど前に新型コロナウイルスに関する記事を書いた時は、どちらかというと経営者向けのメッセージでした。例えば、「売り上げが減少するので今後に備えてキャッシュを準備する」や「この状況に対して早く行動すると、PRバリューが生まれる」のような。しかし、今はもうそのフェーズを超えていて、それぞれが何か行動しなければいけないレベルに達しています。経営者に関して言えば、今年の売上は見えにくいので、とにかくコストをカットすること。欧米はすぐにレイオフとなることも多く、それもあってあちらは緊急モードになっているのではないでしょうか。日本だとそこまでのニュースはまだ少ないです。

長瀬:欧米は、企業も個人もすでに「とにかく人を救おう」というモードになっていますよね。個人で言えば有名な女優がウイルスの開発に寄付したりしています。企業もリーダーシップをとって自社の技術を使って貢献しようとしています。それこそ、鈴木さんのニューバランスは医療従事者向けのマスクを製造するという発表もしましたよね。ここにも日本との温度差を感じています。

鈴木:われわれの競合も含め、いま多くのメーカーがガウン、手袋、マスクなど、医療現場に求められるPPE(Personal Protective Equipment = 個人用防護具)を製造しましょうという流れにはなっています。これらはプロフェッショナル向けなので、高度な専門知識も必要です。

長瀬:そうした企業や個人の動き、または個人同士の動きがこれだけ活発になることが分かっているので、日本もそれを追っていけるとよいと思います。

リーダーシップの前にまずはインナーコミュニケーションを

古市:それらをポジティブに捉えると、日本は欧米の例を見ているので、経営者もマーケターもシリアスな状況に備えることができるとも言えます。今後に向けて備えるべきことはなんでしょうか?

鈴木:制作会社の人と話したのですが、ある程度回復するのが秋冬だとしても、そのための企画・制作は今行わなければならない。しかし、撮影などができず、また企画にGOを出せる人もいないということでした。現場の人は忠実に仕事をこなしますが、こういう状況になると「高い視点で何かをしよう」というよりは「私の仕事はどうなってしまうのか?」が前にきてしまいがちです。いまでこそ欧米企業のリーダーシップある活動が表に出ていますが、おそらく最初はインナー向け、特に社員向けのメッセージが強く発信していたのではないでしょうか。社外に対するリーダーシップの前に、まず現場の人たちに対して安心感を持たせ、同時に我々は何で社会に貢献しているのかを伝える。そうすると「明日の仕事をどうするか」という視点ではなくなると思います。

長瀬 次英氏

長瀬:まさにそうですね。個人レベルで言えば、この状況にどう対応するかを家族に伝えるのと同様に、ビジネスにおいては、まず経営者がリーダーシップをとって、この状況をどう乗り切るのかの方向性を社員に伝える必要があります。どのくらい蓄えがあり、今後借り入れをするのかどうか、いつまで給料を払えるのか?そうしたことをクリアにするのが重要です。さらにその先、この状況を生き残ったとき、会社がどのようなポジションにいるのか、今のポジションを守るのか、それとも全然違う生き方をするのか、経営者はそこを見据えて動く必要があります。
日本は、トップダウンが苦手と言われますが、一方で個のレベルがとても高い。一人ひとりが考え・動けるのが日本の強みだと思います。だからこそ、自分、周囲はもちろん、いままで以上に先を見据えたプランニングが必要になると思います。マーケターは当然そこに、インフレ、為替、中国の回復によるインバウンドの復活などの要素を計算する必要があります。こうした、マーケットの動きを予測することがマーケターの本分なので、それぞれの力が活きる状況になっていくはずです。

新型コロナは価値観変化のきっかけ、歴史を見直すことで分かることも多い

古市:予測が難しい中ではありますが、それぞれ自身が注視していることや気を付けていることなどありますか?

鈴木:欧米の現在は日本がこれから迎える直近の危機に重なりますが、そのさらに先は回復モードにある中国です。最近行った、「もう少し状況が落ち着いたら日本に行きたいか?」というアンケートに対して「行きたい」と回答する人がとても多かった。つまり、欲求自体はなくなっておらず、しっかり状況が整えばインバウンドの復活は期待できるということです。
一方でアメリカでは、緊急モードの最中だからか、この状況が人の価値観を変えるという話が出ています。アメリカのマーケティング専門メディア『Adage』には、「The End of Consumerism」、つまり消費中心の価値観がこれで崩れるのではないかという見方もあります。

長瀬:そういう考え方もあると思います。少し話が前に戻りますが、いま確かな情報を見つけるのがとても難しく、かつ重要度が高くなっています。私はそこにITの力を駆使した方がいいと考えています。例えば、「いつ東京がロックダウンになるのか?」について、いろいろな情報が飛び交っています(4月3日現在)。そういうとき、ソーシャルメディアやネット上で出ているワードや数字をAIが拾って、最新情報を整理してダッシュボードにしてくれる。そこに行けば今の状況が分かるようなことができればと思っています。
一方で、過去に何があったのかにも注目しています。それは疫病だけではなく、リーマンショックのような経済危機も同様です。そうしたときに、どのようなことが人や国に起きたのかは過去から学べることがとても多いです。ちなみに、いまはリーマンショックの時と同じような状況にあります。その時もいち早く立ち直ったのが中国で、そこに頼るのが日本でした。

古市:マーケターは普段からたくさんの情報を集めていると思いますが、この状況での情報ソースは何かと、それに触れる際どのような点に気を付けているのでしょうか?

鈴木:ソーシャルメディアばかりですね、とても分かりやすいですし。

長瀬:たしかに身近なところではそうですよね。あと、最新ではありませんが、外資系コンサル会社のレポートなどでしょうか。客観的にまとまっているのでとても参考になります。新型コロナウイルスの経済的な影響についても細かく書かれているので、役立ちますね。

鈴木:こういうときだからこそ、軸がしっかりした情報に触れるというのは重要ですね。

古市:さきほど、鈴木さんから「価値観の変換」という話がありましたが、そこをもう少し詳しくお聞かせいただけますか。

鈴木:2020年は本来、東京オリンピック・パラリンピックの開催で日本はお祭り騒ぎになるはずでした。しかし延期されたことで、ある意味がっかりすることに慣れてしまった。期待すべきことが先延ばしになったという見方もできますが、悪い方に動くこともあります。例えば、これがきっかけで監視的な社会に進むかもしれないし、レベッカ・ソルニットの「災害ユートピア」のように、災害時に人々がより連携することで新しい信頼関係が生まれるかもしれません。価値観が一方に動くことはなく、良い・悪いの両方があり、そのどちらも見ておくことが大切です。いずれにせよ今回のことが、価値観が変わる大きなきっかけになったことは間違いありません。

長瀬:不謹慎かもしれませんが、こういう状態はグローバルリスクでもあるのですが、同時にグローバルチャンスでもあると思います。例えば企業が販管費、資金運用などのシミュレートを重ねることで、その面でのマネジメント力・プランニング力が高まっていくとか。とにかく、日本にとってこれがいい方向変わるきっかけになってほしいですね。
また、今あるものをより大事にする傾向が強まると思います。この状況だと、新規ビジネスのローンチといった新しいことに手を付けるのは難しい。だから昔から付き合いのあるパートナーを大事にして、経済を立て直そうというマインドが強くなるのは、今一度自分のビジネスを見直すよいきっかけになると思います。それが個人の話になると、自分と向き合うこととなります。特にマーケターは自身がどの位置にあるのかを知ることが重要なので、危機感を持って「自分はこの先どうやって生き残るのか」に意識を向けるようになったのは大きな動きだと思います。
もう1点、エンパシーというか、コミュニティがもっと強くなると思っています。コミュニティにいる安心感ももちろんですが、コミュニティにいるからこそわかる考え方や思想を大事にするような動き、自分はどこに属しているのかをより強く意識していくと思います。ビジネスにおいては、企業間の連携が大切になっていきます。企業がもっと目を開いて頭を使って連携していけば、もっと人を安心させることができると感じています。

視聴者からの質問1:今回のことをきっかけに新しく始めたこと、逆にやめたことは何ですか?

長瀬:Zoomですね。ここ1~2週間くらいずっと使っています。Zoom自体は新しくないですが、使い方が新しくなりましたよね。Zoom飲みというのは、少し前まではほとんど見かけなかったですし。そして、やめたことは人に会うことですね。それはビジネスレベルも同じです。新規は少しおさえて既存ビジネスに集約するというのもその一つです。それに伴ってお客様の扱いも変わってきますよね。店頭・現場に来させないというのも新しいですし、現場に来てもらえない分、どうやってコミュニケーションしようかをものすごく考えています。例えばメルマガをまた使い始めたとか。実際、私のメールボックスも企業からのメール受信数が増えています。企業がお客様とのつながりを作ろうとしていますよね。

終息後に強いのは一定のファンが確実にいるビジネス。そのためにもコミュニティの充実を

視聴者からの質問2:新型コロナウイルスに伴う騒動の終息時に伸びる会社とそうでないところの違いは?

鈴木:これは条件がどこも同じですが、大企業よりはそうではない会社の方がチャレンジも大きいけれど、チャンスも大きい気がしています。大きな会社だとどうしても、長瀬さんがおっしゃったように、慣れ親しんだところに戻ってくるというか、ある程度コンサバになってしまいますよね。

長瀬:終息時にどこが成長しそうかは一概に言えませんが、確実に強いと言えるのは、ある一定の信者・ファンがいるビジネスを持っているところです。必ず帰ってきてくれるし、離れることが少ないですから。当然、メンバーシップ制やファンクラブなどを整備してコミュニケーションできる状態にあるでしょう。それがないところは、終わった後もお金を生み出すことにエネルギーをかける必要があるので、厳しいでしょうね。

鈴木:いま新規ビジネスをやりづらいというのは、まさにそれが理由ですよね。そしてなにより、こういう危機にこそ一番身近な存在である社員が本当に大事だと思います。

長瀬:社員は、身近であると同時に、ある意味最もお金をかけているリソースでもありますよね。また、いまのような状況になると、厳しい業態ほど人が離れていってしまいます。そうならないようにつなぎとめておけるかは、それまでの関係性ですよね。人が離れてしまったらもう終わりだと思うので。

鈴木:社員の価値やファンの価値を改めて実感して、企業が自分たちの強さに自信が持てるようになれば、それは大きなエネルギーになっていきますよね。

長瀬:私は今回のことを経て、世界全体で人と企業のパワーが上がると思っています。人類が戦争以外で共有した唯一の体験がこの新型コロナウイルスです。この体験・ストーリーというのは、これから誰とでも話せる、世界共通の話題になるわけです。その時、この会話の中で唯一の差別化ポイントとなるのが「それぞれの国が何をしてくれたのか」という対応の違いになります。きっと、誰かが「国は何をしてくれたのか?」という一覧表を作ってソーシャルメディアにアップするでしょうし、その企業バージョンも出てくると思います。企業にとって、「これから人は何を話題にしていくのか」は大切な情報なので、連帯感・一体感を生み出すと同時に、どこが差別化のポイントになるかも考える必要がありますよね。

古市:最後に、ここを乗り切ろうとしているマーケターのみなさんにメッセージをお願いします。

鈴木:人に会う機会が少なくなっているのでZoom飲み会するなど、雑談するだけで気持ちが安心します。自分を見つめる時間が長すぎると、自分の考え・プリンシプルを人と共有したくなってきますよね。そういう機会をつくるためにも、ぜひ一緒にZoom飲みしましょう!

長瀬:私も鈴木さんと同様、もっと人と話す機会を増やしましょうということですね。Zoomのようなソリューションが無料で使えるわけですから、積極的にコミュニケーションを増やしていきましょう。

古市:本日はありがとうございました。

鈴木 健(株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部 ディレクター)[右上]/長瀬 次英(Pencil&Paper.Com株式会社 CEO、Visionary Solutions株式会社 CEO)[下]、ad:chanパーソナリティ:古市 優子(コムエクスポジアム・ジャパン株式会社 President and CEO)[左上]

*社名・役職は登壇時のものです

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